これ以後2007年までの6年間、アメリカの主要シングルチャートであるBillboard Hot 100で唯一、年間ランキングも含め1位を獲得するロックバンドとなった。アメリカ同時多発テロ事件と同日に発表された収録アルバム『シルヴァー・サイド・アップ』は全世界で1,000万枚を超える売り上げを記録し、16ヶ国でプラチナ認定を受けるヒット作となった。
以降も2003年発表のシングル「サムデイ」「フィギュアド・ユー・アウト」はゴールド認定を、2005年発表の「フォトグラフ」はダブルプラチナ認定をそれぞれ受けるヒットとなった。2005年発表のアルバム『オール・ザ・ライト・リーズンズ』は、アメリカでは7曲がシングルカットされ、うち「フォトグラフ」を含む3曲がBillboard Hot 100でトップ10入りを記録し、イギリスでも1曲がトップ3入りとなり、各国でヒットを記録した。2010年にはバンクーバーオリンピック閉会式において「バーン・イット・トゥー・ザ・グラウンド」の演奏を行った。
9年のキャリアを通して、ニッケルバックは自分たちのルーツを守り続け、真っ直ぐで言い訳をしないロックンロールのCDを5枚リリースしてきた。そして、『Silver Side Up』と『The Long Road』の大成功から、このカナダのバンドはどう変化しただろうか? チャドとマイク・クルーガーの兄弟は今でもグレート・ホワイト・ノースで暮らしているし、今でもフック満載のロックを書いている。ただひとつ変わった点は、彼らは1000万枚のCDを売りあげて、ニッケルバックをどんなに嫌っている人でも、キャッチーなヒットソングに合わせて思わず口ずさんでしまうと嫌々ながら告白することを余裕で承知して、満足していることだ。『All the Right Reasons』では、1曲、間違いなく受けて大いにハミングされる曲がある。ファースト・シングルの「Photograph」だ。小さな町のハイスクール時代のほろ苦い思い出を回想する曲で、フロントマンのチャド・クルーガーが記憶に残るフックを書ける能力があることを、再認識させる。他の曲については、愛、欲望、嫉妬、失恋についてのスタンダードなロックのネタを歌い、リフに乗せて、昔からのファンが喜びそうなアルバムに仕上げている。あら探しをして喜ぶ面々は、バラードの「If Everyone Cared」、リフ満載の「Fight for All the Wrong Reasons」、メタリカを思わせる「Savin' Me」といったバラードのグルーヴに、欠けているものがあることを発見することだろう。だが、本アルバムの最も印象的で、同時にシュールな瞬間は、「Side of a Bullet」で訪れる。パンテラのギタリストのダレル・アボット、別名"ダイムバッグ"の殺人犯について熾烈な復讐の物語をつづり、パンテラのバンドメイトであり兄弟であるドラマーのヴィニー・ポールからもらい受けた故アボットのギター・ソロをフィーチャーした曲だ。
マルチ・プラチナアルバムとなる大成功を収めた前作に続くアルバムを制作するのは決してたやすいことではない。だが、カナダ出身のバンド、ニッケルバックのこの最新作が、数百万枚のセールスを上げた『Silver Side Up』に匹敵するセールスを上げるのはまちがいないようだ。
本作の音楽的路線は、前作とほぼ同じだ。飾り気のない、まさにラジオ受けするグランジ・ミュージックが、絶妙にドラマチックなサウンドをバックに、チャド・クルーガーの力強く、ますます信頼感を増すヴォーカルを支えている。パンチのあるアップテンポなオープニング曲「Flat on the Floor」は別として、スタッカートを効かせたタフな「Because of You」、オアシスを思わせる「Figured You Out」で、バンドはソフトロックのアンセムをひたすら聴かせてくれる(ソフトと言っても、2003年の細分化されたジャンル分けの基準で言えばの話だ)。
本作での唯一の変化は、クルーガーの詩が描く対象だ。2000年の『The State』では、田舎町で暮らすフラストレーションをさらけだしていたが、本作では、メンバー間の緊張を限界まで張りつめさせ、破壊的な薬物乱用を引き起こす過酷なツアー・スケジュールに苦しんでいる。つまり、容赦ないほどに分析的なクルーガーが、その視点をスーパーマーケットへのお出かけから、憎悪と自己批判に満ちた騒乱に変えようとしていることを感じずにいられない。